地図データを重ね合わせたら位置が 400〜450m もずれていた——GIS や測量の実務で一度は直面するこの問題の原因は「測地系の違い」にある。日本では 2002 年の測量法改正を境に、旧来の日本測地系(Tokyo Datum)から世界測地系(JGD2000 → JGD2011)へ移行した。しかし改正前に作成されたデータは依然として日本測地系のまま残存しており、変換作業なしに混在させると深刻な位置誤差を招く。

ここでは測地系の基礎概念から、日本測地系と世界測地系それぞれの特徴、具体的な座標値のずれ、変換方法、データの見分け方までを整理する。

測地系とは

測地系(Geodetic Datum)とは、地球上の位置を経度・緯度で表すための基準体系のこと。地球は完全な球ではなく、赤道方向にやや膨らんだ楕円体に近い形をしている。この楕円体をどのように定義し、地球のどこを原点とするかによって、同じ地点でも経緯度の数値が変わる。

測地系を構成する主な要素は次の 3 つ。

要素内容
準拠楕円体地球の形を近似する数学的な楕円体モデル。長半径と扁平率で定義される
測地原点楕円体を地球に合わせる際の基準点。経緯度・方位角を固定する
ジオイド面平均海面を陸地内部まで延長した仮想的な面。標高の基準となる

準拠楕円体が異なれば、同一地点の座標値も異なる。日本測地系と世界測地系の座標ずれは、この楕円体の違いに起因する。


日本測地系(Tokyo Datum)とは

日本測地系は、明治時代に採用された日本独自の測地基準系である。正式には「旧日本測地系」とも呼ばれる。

準拠楕円体:ベッセル楕円体

1841 年にドイツの天文学者フリードリッヒ・ベッセルが算出した楕円体を採用している。

パラメータ
長半径6,377,397.155 m
扁平率の逆数299.1528128

測地原点:旧東京天文台

東京都港区麻布台(旧東京天文台跡地)に設置された天文測量の結果を原点としている。原点の経緯度と方位角を固定し、全国の三角点をこの原点から相対的に測定した。

使用期間

明治期の近代測量制度の整備から 2002 年 3 月 31 日 まで、日本の測量法上の基準として使用された。2001 年の測量法改正(法律第 53 号)により廃止が決定し、2002 年 4 月 1 日に世界測地系へ移行した。

現在も残る日本測地系データ

法律上は廃止されたが、改正以前に作成された地図・GIS データ・台帳類は日本測地系のまま保管されているケースが多い。自治体が管理する都市計画図、農地台帳、林班図などは、予算や工数の制約から座標変換が進んでいない場合がある。


世界測地系とは

世界測地系は、GPS 衛星測位を含む国際的な測量・航法で共通に使える測地基準系の総称である。地球全体を最も精度よく近似する楕円体を採用し、地球の重心を原点に置く点が日本測地系と根本的に異なる。

準拠楕円体:GRS80

国際測地学・地球物理学連合(IUGG)が 1980 年に採用した GRS80(Geodetic Reference System 1980)楕円体を基礎とする。

パラメータ
長半径6,378,137.000 m
扁平率の逆数298.257222101

ベッセル楕円体と比較すると、長半径が約 739m 長く、扁平率もわずかに異なる。この楕円体の形状差が、座標値のずれの「一様成分」を生む。

原点:地球の重心

世界測地系は地球全体の質量中心(ジオセントリック)を原点に設定する。日本測地系のように特定の天文台に固定するのではなく、世界各地の観測データを統合して重心位置を求める。


日本測地系と世界測地系の違い|比較表

両者の主要な違いを一覧にまとめる。

項目日本測地系(Tokyo Datum)世界測地系(JGD2000/2011)
準拠楕円体ベッセル楕円体(1841 年)GRS80 楕円体(1980 年)
長半径6,377,397.155 m6,378,137.000 m
扁平率の逆数299.1528128298.257222101
原点旧東京天文台(局所原点)地球の重心(地心原点)
座標系の範囲日本周辺に最適化全地球
法的根拠旧測量法(〜2002年3月)改正測量法(2002年4月〜)
GPS との整合性低い(数百 m のずれ)高い(数 cm 以内)

座標値のずれ

同一地点を日本測地系と世界測地系で表すと、北西方向に約 400〜450m のずれが発生する。例えば東京付近では、緯度で約 +12 秒、経度で約 −12 秒の差が生じる。

このずれは以下の 2 成分から構成される。

  • 一様成分:準拠楕円体の形状・大きさ・中心位置の違いに起因する。日本全国でほぼ均一な方向・大きさのずれ
  • 地域成分:三角測量の誤差や地殻変動の蓄積により、地域ごとに異なる不規則なずれ。離島では特に大きくなる

日本で使われている世界測地系の種類

「世界測地系」と一口にいっても、日本国内では複数のバージョンが使い分けられている。

JGD2000(日本測地系 2000)

2002 年の測量法改正で導入された日本初の世界測地系準拠の測地成果。ITRF94(国際地球基準座標系 1994 年版)の座標値に基づいている。EPSG コードは 4612

JGD2011(日本測地系 2011)

2011 年の東日本大震災で東北・関東地方の地殻が最大 5.3m(牡鹿半島)水平移動したことを受け、国土地理院が測量成果を改定したもの。EPSG コードは 6668

座標系の基準は地域によって異なり、東日本・北陸(東北、関東、新潟、富山、石川、福井、山梨、長野、岐阜)は ITRF2008その他の地域は ITRF94 を継続使用している。

JGD2000 から JGD2011 への改定のポイントは次のとおり。

  • 東北地方を中心に、水平方向で最大 5.3m の座標値変動を反映
  • セミ・ダイナミック補正パラメータを導入し、地殻変動を継続的に補正する仕組みを整備
  • 2011 年 10 月 28 日に公表、10 月 31 日から提供開始

震災前のデータが JGD2000、震災後のデータが JGD2011 であるケースが多いため、東日本のデータを扱う際は測地系のバージョンに注意が必要になる。

JGD2024(測地成果 2024)

2025 年 4 月 1 日に施行された最新の測地成果。ただし JGD2024 で改定されたのは標高成果のみであり、水平座標(緯度・経度)は JGD2011 から変更されていない。従来の水準測量に基づく標高を、衛星測位+ジオイドモデルに基づく標高へ更新したもので、地域によっては数十 cm 程度の標高変化が生じている。

WGS84

GPS 衛星が採用する測地系。GRS80 とほぼ同一の楕円体を使用しており、長半径は同じ 6,378,137m。扁平率は小数点以下 8 桁目以降にごくわずかな差がある程度で、実用上は JGD2000/2011 と WGS84 の座標差は数 cm 以内に収まる。


WGS84 と GRS80 の違い

「WGS84 と GRS80 は同じなのか」という疑問は頻出する。結論からいえば、楕円体パラメータはほぼ同一だが、座標系としての管理体制が異なる

WGS84GRS80
管理機関米国国防総省(DoD)国際測地学・地球物理学連合(IUGG)
用途GPS 衛星測位各国の測地基準系の楕円体
長半径6,378,137.000 m6,378,137.000 m
扁平率の逆数298.257223563298.257222101
座標差赤道上で約 0.1mm の差

実務上、WGS84 と JGD2000/JGD2011 を区別する必要があるのは、mm 精度が要求される精密測量の場合に限られる。一般的な GIS 利用やカーナビゲーションでは同一とみなして問題ない。


JGD2000 と JGD2011 の違い

両者の差は主に東日本大震災による地殻変動の反映にある。

項目JGD2000JGD2011
基準座標系ITRF94(元期 1997.0)東日本: ITRF2008 / 西日本: ITRF94
座標差(東北)水平 5m 超のずれ
座標差(西日本)数 cm 程度
セミ・ダイナミック補正なしあり
EPSG コード46126668

西日本のデータであれば JGD2000 と JGD2011 の差はごく小さいが、東北・関東地方のデータでは数 m 単位の差が生じるため、混在させると地図上で明らかなずれとして現れる。


測地系と座標系の違い

「測地系」と「座標系」は混同されやすいが、役割が異なる。

  • 測地系(Datum):地球の形(楕円体)と原点を定義する。「地球をどのような形でモデル化するか」の基準
  • 座標系(Coordinate System):位置の表現方法を定義する。「経緯度で表すか、平面直角座標で表すか」の形式

たとえば「JGD2011 + 平面直角座標系第 9 系」のように、測地系と座標系を組み合わせて使う。同じ JGD2011 でも、経緯度で表す場合と平面直角座標系で表す場合では、数値の見た目はまったく異なる。

日本でよく使われる座標系

座標系特徴
地理座標系(経緯度)度・分・秒または十進法で表現。GPS や Web 地図の標準
平面直角座標系全国を 19 の系に分割し、XY 座標(m 単位)で表現。公共測量で使用
UTM 座標系全球を 6 度幅のゾーンに分割。軍事・国際的なデータ共有で使用
Web メルカトルGoogle Maps や OpenStreetMap で採用。EPSG:3857

日本測地系と世界測地系の見分け方

手元のデータがどの測地系かを判別する方法は、データの形式によって異なる。

1. メタデータ・EPSG コードを確認する

GIS データには通常、測地系情報がメタデータとして格納されている。

EPSG コード測地系
4301日本測地系(Tokyo Datum)
4612JGD2000
6668JGD2011
4326WGS84

Shapefile であれば .prj ファイル、GeoJSON であれば crs プロパティにこの情報が記載される。

2. データの作成年で推定する

  • 2002 年 3 月以前に作成された公共測量成果 → 日本測地系の可能性が高い
  • 2002 年 4 月〜2011 年 10 月に作成 → JGD2000
  • 2011 年 10 月以降に作成 → JGD2011

ただし、古いデータを変換せずに再配布しているケースもあるため、作成年だけで断定はできない。

3. 地図上で座標を確認する

座標値を Google Maps や国土地理院地図(GSI Maps)にプロットし、既知のランドマークと比較する方法もある。日本測地系の座標値を世界測地系前提の地図に表示すると、北西方向に約 400m ずれて表示される。このずれが確認できれば日本測地系と判断できる。


日本測地系から世界測地系への変換方法

国土地理院 TKY2JGD(Web 版)

国土地理院が無償で提供するオンライン変換ツール。日本測地系(Tokyo Datum)から JGD2000 への変換に対応している。

  • URL:https://vldb.gsi.go.jp/sokuchi/surveycalc/tky2jgd/main.html
  • 入力形式:経緯度(度分秒 or 十進法)
  • 変換精度:地域成分を含む高精度変換が可能

海上保安庁の座標変換ツール

海域データ向けに、海上保安庁も変換ツールを公開している。陸域の TKY2JGD と補完的に利用できる。

簡易計算式による変換

国土地理院が公開している 3 パラメータ変換の簡易式は以下のとおり。

緯度(世界測地系)= 緯度(日本測地系) − 0.00010695 × 緯度(日本測地系)
                     + 0.000017464 × 経度(日本測地系) + 0.0046017
経度(世界測地系)= 経度(日本測地系) − 0.000046038 × 緯度(日本測地系)
                     − 0.000083043 × 経度(日本測地系) + 0.010040

※ 緯度・経度は十進法(度単位)。精度は本土で約 1m 程度。

簡易式は離島や北海道東部など地域成分が大きいエリアでは誤差が増大するため、高精度が求められる場合は TKY2JGD のグリッド補正を使うべきである。

GIS ソフトでの変換

QGIS や ArcGIS では、レイヤーの座標参照系(CRS)を変更することで測地系変換が行える。

QGIS の場合:

  1. レイヤーを右クリック → 「エクスポート」→「地物の保存」
  2. CRS のドロップダウンで変換先(例:EPSG:6668 = JGD2011)を選択
  3. 保存時に自動で座標変換が実行される

ArcGIS の場合:

  1. 「データ管理ツール」→「投影変換と座標変換」→「投影変換」
  2. 入力座標系に日本測地系、出力座標系に JGD2011 を指定
  3. 地理座標変換に「Tokyo_To_JGD_2000_1」などの変換手法を選択

エクセルでの変換

少量の座標データであれば、前述の簡易計算式をエクセルのセル数式に組み込んで変換できる。大量データの場合は CSV を TKY2JGD に一括投入するほうが精度・効率ともに優れる。


変換時の誤差と注意点

簡易式の精度限界

3 パラメータ簡易式は一様成分のみを補正する。地域成分(三角測量の誤差蓄積、地殻変動の影響)は補正されないため、場所によっては数 m の残差が出る。特に以下の地域は注意が必要。

  • 離島(小笠原諸島、南西諸島など):地域成分が 10m を超えるケースがある
  • 北海道東部:千島海溝沿いの地殻変動の影響が大きい

JGD2000 → JGD2011 の変換

国土地理院は JGD2000 から JGD2011 への変換パラメータ(PatchJGD)も公開している。東日本のデータを扱う場合は、TKY2JGD で日本測地系 → JGD2000 に変換した後、さらに PatchJGD で JGD2011 に変換する 2 段階の手順が必要になることがある。

標高の扱い

測地系の変換で変わるのは主に水平座標(緯度・経度)であり、標高(楕円体高・ジオイド高)は別の補正が必要になる。測地系変換と標高変換を混同しないよう注意する。


測地系の違いがもたらす実務上の影響

地図データの重ね合わせ

異なる測地系のデータをそのまま重ねると、道路や建物が 400m 以上ずれて表示される。不動産の地番図と航空写真の重ね合わせ、都市計画図とインフラ台帳の統合など、実務でこの問題に直面する場面は多い。

地域メッシュ統計との整合性

国勢調査などの地域メッシュ統計は、1990 年以前は日本測地系、1995 年以降は世界測地系のメッシュ区画に基づいて集計されている。異なる年次のメッシュデータを比較する際は、測地系の違いによるメッシュ区画のずれ(400〜450m)に留意する必要がある。

建設・測量業界

公共測量の成果は世界測地系が必須だが、過去の境界確定図や用地測量成果には日本測地系のものが残っている。座標変換せずに設計図に取り込むと、境界杭の位置が実際と大きくずれる原因になる。


よくある質問(FAQ)

日本測地系はいつ廃止された?

2001 年 6 月に測量法が改正(法律第 53 号)され、2002 年 4 月 1 日に世界測地系への全面移行が施行された。これにより日本測地系は法律上の測量基準としての地位を失った。

世界測地系に移行するメリットは?

国家基準点の位置精度と信頼性が向上し、GPS と直接整合する座標値が得られる。国土地理院によれば、国の機関や自治体が行う類似の測量を削減でき、測量コストの縮減効果が期待できるとされている。

WGS84 と JGD2011 は同じ?

楕円体パラメータはほぼ同一(長半径は完全一致、扁平率の差は赤道上 0.1mm 相当)だが、座標系の管理体制と準拠する座標フレームが異なる。一般的な GIS 利用では同一とみなせるが、精密測量では区別が必要。

世界測地系と日本測地系のメッシュのずれはどのくらい?

座標値にして約 400〜450m のずれが生じる。1990 年以前の国勢調査メッシュ(日本測地系)と 1995 年以降のメッシュ(世界測地系)を直接比較すると、同じメッシュコードでもカバーする地理的範囲が異なる。

日本測地系と世界測地系はどっちを使えばいい?

現在の公共測量や地図作成では世界測地系(JGD2011)を使用する。日本測地系を新規に採用する理由はなく、過去のデータを扱う場合は世界測地系に変換してから利用するのが標準的な手順。

座標変換ツールはどれを使えばいい?

国土地理院の TKY2JGD(Web 版)が最も信頼性が高い。グリッド補間による高精度変換に対応し、無償で利用できる。大量データの一括変換にも対応しているため、まずこのツールを第一選択とすることを推奨する。