教室で教員が一方的に知識を伝達する講義型授業だけでは、変化の激しい社会に対応できる人材を育てにくい――そんな課題意識から注目度が増しているのが PBL(ピービーエル) です。文部科学省が2017年に改訂した学習指導要領でも「主体的・対話的で深い学び」の実現が掲げられ、PBLはその具体的手法のひとつとして小学校から大学まで幅広く取り入れられています。

PBLの定義と2つの系譜

PBLには、英語の頭文字が同じでありながら異なる2つの学習形態が含まれます。

観点Problem Based Learning(問題基盤型学習)Project Based Learning(プロジェクト型学習)
起源1969年 カナダ・マクマスター大学医学部1918年 キルパトリックのプロジェクトメソッド
中心概念教員が提示した「問題」を解決するプロセス学習者が設定した「課題」の成果物を仕上げるまでの全工程
学習のゴール問題解決の思考過程を体得する成果物の完成と社会への提案
主な対象分野医学・看護・薬学工学・社会科学・総合的な学習の時間
グループ形態少人数チュートリアル(5〜8名程度)多様な人数構成のプロジェクトチーム

両者に共通するのは「学習者が主体的に考え、仲間と協働しながら答えのない問いに取り組む」という姿勢です。日本の教育現場ではProject Based Learningを指すケースが多く、本記事でも特に断りがない限りProject Based Learningの意味でPBLと表記します。

PBLが生まれた背景と歴史

デューイとキルパトリック――理論的ルーツ

PBLの思想的源流は、アメリカの教育哲学者ジョン・デューイ(1859–1952)にまで遡ります。デューイは「為すことによって学ぶ(Learning by doing)」を提唱し、経験と反省の循環を通じた学びの重要性を説きました。

デューイの弟子であるW.H.キルパトリック(1871–1965)は、1918年に論文「The Project Method」を発表し、目的を持った活動を中心に据える教育法を体系化しました。この「プロジェクトメソッド」がProject Based Learningの直接的な起源です。

マクマスター大学――Problem Based Learningの誕生

一方、Problem Based Learningは1969年にカナダのマクマスター大学医学部で始まりました。同大学の医学教育者たちが、実際の臨床症例を題材に学生が自ら仮説を立て、必要な知識を調べながら診断に至るカリキュラムを開発しました。1971年に同大学に加わった神経学者ハワード・バロウズは、このアプローチをさらに体系化・普及させた中心人物です。「problem-based learning」という用語が文献に初めて登場したのは1974年のNeufeld & Barrowsの論文です。

このモデルはその後、オランダのマーストリヒト大学やオーストラリアの複数の医学部へ広がり、2000年代以降は医学以外の分野にも応用されています。

PBLとSBL・TBL・CBLの違い

PBLと混同されやすい学習形態を整理します。

比較項目PBL(課題解決型)SBL(講義中心型)TBL(チーム基盤型学習)CBL(ケース基盤型学習)
学習の出発点実社会の課題・問題教科書の体系的知識事前学習+チーム活動実際の事例(ケース)
教員の役割ファシリテーター講師コーチ+テスト設計者ディスカッションリーダー
学習者の主体性高い低い中〜高中程度
事前知識の必要性低い(調べながら学ぶ)不要(その場で教わる)高い(予習テストあり)中程度
成果物レポート・プレゼン・制作物などテストの得点チーム課題の解答ケース分析レポート
向いている場面複合的な課題探究基礎知識の効率的伝達大人数クラスでの協働学習専門職教育の意思決定訓練

SBL(Subject Based Learning)は従来型の教科書中心の授業で、「教員が教え、学生が聞く」形式です。PBLはSBLの弱点である「知識の実践的応用力の不足」を補う手法として位置づけられます。

TBL(Team-Based Learning)は1979年にアメリカ・オクラホマ大学の経営学教授ラリー・マイケルセンが開発した手法で、個人予習テスト→チームテスト→応用課題という3段階構成が特徴です。PBLよりも構造化されており、大人数クラスでも運用しやすい利点があります。

PBLの2つのアプローチ

PBLの実施方法は大きく2つに分けられます。

チュートリアル型

少人数グループ(通常5〜8名)で、教員がファシリテーター役を務めながら問題解決に取り組む形式です。医学部の症例検討型授業が典型で、以下のサイクルを回します。

  1. 問題の提示と用語の確認
  2. 何がわかっていて何がわからないかの整理
  3. 学習課題の設定と役割分担
  4. 個人での調査・学習
  5. グループでの統合・ディスカッション
  6. 振り返りと知識の定着確認

チュートリアル型は知識の深い理解に適していますが、ファシリテーターの力量に学習効果が左右されやすい面があります。

実践体験型(プロジェクト型)

企業や自治体など外部のパートナーが抱えるリアルな課題を題材に、学習者がチームで解決策を提案・実行する形式です。数週間から半年以上かけて進めることもあります。

たとえば福井県の「未来協働プラットフォームふくい」では、県内企業の課題を大学生がPBLで取り組む仕組みが整えられています。商品デザインの刷新やまちづくりの企画立案など、実社会に直結したテーマが扱われます。

PBLで期待できる6つの教育効果

1. 自分で考え抜く力が育つ

PBLでは「正解が1つではない問い」に向き合うため、学習者は複数の情報を比較検討し、自分なりの解を導く必要があります。この過程が批判的思考力や論理的思考力の土台になります。

2. 学んだ知識が長期記憶に残りやすい

認知心理学の知見によれば、文脈のある状況で使った知識は、単なる暗記よりも記憶に定着しやすいとされています。PBLは課題解決という文脈の中で新しい知識を活用するため、知識の保持率が高まります。

3. 協働力・コミュニケーション能力が向上する

チームでの役割分担、合意形成、プレゼンテーションなど、PBLのプロセスには対人スキルが必要な場面が多数あります。異なる意見を調整し、共通のゴールに向かう経験は、社会に出てからも直接的に役立ちます。

4. 情報を扱うリテラシーが身につく

課題解決に必要な情報を自ら探し、信頼性を判断し、整理する作業が繰り返されます。インターネット上の情報の真偽を見極める力は、デジタル社会を生きるうえで欠かせない素養です。

5. 学習へのモチベーションが高まる

「自分が選んだテーマ」「実社会とつながる課題」に取り組むとき、学習者の内発的動機づけは大きく高まります。やらされる勉強ではなく、自ら知りたいと感じる学びへと転換できる点がPBLの大きな強みです。

6. 表現力・プレゼンテーション力が鍛えられる

PBLでは最終成果をチーム外に発表する機会が組み込まれるのが一般的です。調べた内容を聞き手に伝わるように構成し直す過程で、言語化能力やプレゼンテーション力が自然と磨かれます。

PBL導入時に注意すべき4つの課題

1. ファシリテーションの難しさ

PBLでは教員が「教える人」から「引き出す人」へと役割を変える必要があります。適切な問いかけやグループの進行管理は経験がないと難しく、ファシリテーションスキルの研修が欠かせません。

2. 学習成果の評価が複雑になる

ペーパーテストでは測りにくい力(協働性、創造性、プロセスへの貢献度)をどう評価するかは、PBLの最大の課題のひとつです。後述するルーブリックやポートフォリオなど、多面的な評価手法を組み合わせる必要があります。

3. 授業時間の確保

教科書を順に進める授業と比べて、PBLは1つのテーマに多くの時間を要します。カリキュラム全体の中でPBLに充てられる時間をどう確保するか、学校全体での調整が求められます。

4. すべての学習者に等しく有効とは限らない

基礎的な知識やスキルが不足している学習者にとっては、自由度の高いPBLが逆にハードルとなる場合があります。事前の知識補填やスモールステップの設計など、個別の配慮が重要です。

文部科学省が推進する「主体的・対話的で深い学び」との関係

2016年12月の中央教育審議会答申を受け、2017年に改訂された学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」の実現が全教科に求められました。当初は「アクティブ・ラーニング」という呼称が使われていましたが、形式的な活動に偏るリスクを避けるため、最終的に「主体的・対話的で深い学び」へと表現が改められました。

「主体的・対話的で深い学び」は特定の教授法を指すのではなく、授業改善の視点です。PBLはこの視点を具現化する手法のひとつであり、「①知識及び技能」「②思考力、判断力、表現力等」「③学びに向かう力、人間性等」という学習指導要領の三本柱すべてにアプローチできる学習形態として注目されています。

小学校では2020年度、中学校では2021年度、高等学校では2022年度から新学習指導要領が全面実施されており、総合的な学習(探究)の時間を中心にPBL的な授業が広がっています。

PBL授業を設計する5つのステップ

教員がPBL型の授業を新たに導入する際の実践的な手順を示します。

ステップ1:駆動質問(Driving Question)の設計

PBL授業の核となるのは「駆動質問」と呼ばれるテーマ設定です。「はい・いいえ」では答えられず、教科書を見るだけでは解決できない、考える余地のある問いを設計します。

良い駆動質問の条件:

  • 学習者にとって身近で関心を持てるテーマである
  • 教科の学習目標と紐づいている
  • 複数の調査・活動が必要な複合的な問いである
  • 答えが1つに定まらない開放型である

例:「私たちの地域の高齢者が安心して外出できるまちをつくるには、どんな仕組みが必要か?」

ステップ2:学習目標とスケジュールの明確化

駆動質問を通じて達成すべき教科の学習目標(知識・スキル)を明確にし、全体の時間配分を決めます。週あたりの授業時数やプロジェクト全体の期間(2週間〜3ヶ月程度)をあらかじめ設定しておくと、授業が間延びするのを防げます。

ステップ3:チーム編成とルールの設定

学力や興味関心のバランスを考慮してグループを編成し、チーム内の役割(リーダー、記録係、調査担当など)や活動のルールを決めます。全員が発言する機会を確保する工夫(ラウンドロビン方式など)も有効です。

ステップ4:調査・制作・中間発表

学習者がリサーチを行い、情報を整理・分析し、解決策や成果物を形にしていくフェーズです。教員はこの段階でフィードバックや問いかけを通じて、思考の深まりを促します。中間発表を挟むことで方向修正の機会を設けると、最終成果の質が上がります。

ステップ5:最終発表と振り返り

成果物の発表だけでなく、プロセスを振り返ることがPBLでは非常に重要です。「何がうまくいったか」「次回改善すべき点は何か」を個人とチームの両方で省察します。この振り返りが次の学びへの接続点になります。

PBLにおける評価方法

PBLの学習成果を適切に評価するには、テストの点数だけに頼らない多角的なアプローチが必要です。

ルーブリック評価

ルーブリックとは、評価の観点(例:論理性、協働性、独創性)ごとに、達成度を数段階(例:4段階)で記述した評価表です。あらかじめ学習者に共有しておくことで、目指すべき水準が可視化され、自己調整学習を促進します。

ルーブリックの一例(プレゼンテーション評価):

評価観点4(模範的)3(達成)2(発展途上)1(要支援)
論理構成主張と根拠が一貫し聞き手を説得できる主張と根拠の対応が明確構成に部分的な飛躍がある主張と根拠の結びつきが不明瞭
協働への貢献チームの進行を率先して促進した役割を責任をもって果たした一部の作業にのみ参加したほぼ関与しなかった
創造性既存にない視点や手法を提案した課題に対する独自の工夫がある既存の手法を組み合わせたテンプレートに依存した

ポートフォリオ評価

学習過程で作成したメモ、調査記録、下書き、最終成果物などを時系列で蓄積し、成長の過程を可視化する手法です。ポートフォリオ検討会(教員と学習者の面談)を挟むことで、学習者の自己評価力も高まります。

相互評価(ピアレビュー)

チームメンバー同士が互いの貢献度を評価します。「誰がどれだけ頑張ったか」を可視化することで、フリーライダー問題の抑止にもつながります。

学校段階別のPBL導入ポイント

小学校

低学年では生活科と組み合わせ、身近なテーマ(学校の花壇の設計、地域の安全マップ作成など)を設定すると取り組みやすくなります。高学年では総合的な学習の時間を活用し、数時間〜十数時間の短期プロジェクトから始めるのが現実的です。

中学校・高等学校

教科横断型のテーマ設定が効果的です。たとえば「地域の過疎化」をテーマにすると、社会科(人口動態)、数学(統計分析)、国語(提案文の作成)、技術(ICTでのデータ可視化)など複数教科の学習目標を同時に達成できます。2022年度から高等学校で必修化された「総合的な探究の時間」はPBLと親和性が高い科目です。

大学

産学連携型PBLが盛んです。関西学院大学商学部では企業と連携したビジネスプロジェクトをPBL科目として開講し、学生がリアルな経営課題に取り組んでいます。産業能率大学では全学的にPBL型授業を展開し、企業から出された課題に対して解決策を提案する形式が採用されています。

海外のPBL先進事例

フィンランド:現象ベース学習(Phenomenon-based Learning)

フィンランドでは2014年に改訂された基礎教育カリキュラムに「現象ベース学習(PhBL)」が導入されました。従来の教科の枠を超え、食文化・気候変動・地域の歴史など「現象(テーマ)」を軸に複数教科を統合して学ぶアプローチです。PBLの思想を国家カリキュラムレベルで制度化した先進的な取り組みとして国際的に注目されています。

オランダ:マーストリヒト大学のPBL全学展開

オランダのマーストリヒト大学は1976年の開学当初からPBLをすべての学部で採用し、「PBL大学」として世界的に知られています。少人数チュートリアルを中心に据え、学生が自ら学習課題を設定して調べ、グループで議論する形式がカリキュラム全体に一貫して組み込まれています。

アメリカ:High Tech Highの中等教育PBL

カリフォルニア州サンディエゴにある公立チャータースクール「High Tech High」は、カリキュラムの大部分をPBLで構成しています。生徒たちはドキュメンタリー映像の制作や工学プロジェクトなど、実世界に意味のある成果物をつくることを通じて各教科の学力を身につけます。

PBLに関するよくある質問

PBLとアクティブラーニングはどう違うのですか?

アクティブラーニングは「学習者が能動的に学ぶ授業形態の総称」で、グループディスカッション、反転授業、プレゼンテーション活動なども含む広い概念です。PBLはアクティブラーニングの一手法であり、「実社会の課題を起点に学ぶ」という明確な特徴を持ちます。

PBLと探究学習は同じものですか?

厳密には異なります。「総合的な探究の時間」は学習指導要領に定められた教育課程の一部であり、課題設定→情報収集→整理・分析→まとめ・表現という探究のサイクルを軸にしています。PBLは探究のサイクルを実践するための有力な方法論のひとつですが、探究学習=PBLではありません。探究学習の中でPBLの手法を活用する、という関係です。

成績評価はどのように行えばよいですか?

先述のルーブリック、ポートフォリオ、相互評価を組み合わせることで、プロセスと成果の両面を評価できます。教科の知識理解を確認するための小テストを並行して実施し、PBLによる深い理解と基礎知識の定着を両立させる方法もあります。

教科書の内容を終わらせつつPBLを取り入れることはできますか?

可能です。すべての授業をPBLに切り替える必要はありません。単元の中で1〜2回、PBL型のミニプロジェクト(2〜4時限程度)を組み込む「部分導入」が現実的な選択肢です。教科書で扱う知識を活用する場面を意図的に設計すれば、知識の定着とPBLの効果を同時に得られます。

まとめ

PBLは単なる授業テクニックではなく、「知識を使って社会の課題に向き合える人材をどう育てるか」という教育の根本的な問いに応える学習デザインです。Problem Based LearningとProject Based Learningという2つの系譜を持ち、チュートリアル型と実践体験型のアプローチがあります。

導入にあたっては、駆動質問の設計、適切なチーム編成、多角的な評価方法の整備が成功の鍵です。一度にすべてを変える必要はなく、小さなプロジェクトから段階的に始めることで、教員も学習者もPBLの進め方に慣れていけます。

日本では学習指導要領の改訂を追い風に、小学校の総合的な学習の時間から大学の産学連携プロジェクトまで、PBLの実践が広がっています。フィンランドの現象ベース学習やオランダのマーストリヒト大学のように、カリキュラム全体にPBLを組み込む海外の事例も、今後の日本の教育設計にとって参考になるはずです。