Rustは高速性・安全性・並行処理性能を兼ね備え、システムプログラミングからWebバックエンドまで幅広い領域で採用が拡大しています。JetBrainsの2024年Developer Ecosystem調査によると、過去12か月間にRustを使用した開発者は推定226.7万人に達し、商用利用率は2021年比で68.75%増加しました(出典: JetBrains State of Developer Ecosystem 2024)。

Rustの学習コストが高いと感じる原因の一つに、開発環境の選択肢が多すぎる点があります。所有権やライフタイムといった独自概念のコンパイルエラーを効率よく解消するには、rust-analyzerとの連携品質が高いエディタを選ぶことが重要です。

ここでは、2026年時点で実用的なRust向けエディタ/IDEを6つ取り上げ、機能比較・導入手順・用途別の選び方まで網羅的に解説します。

Rust開発でエディタ/IDE選びが重要な理由

コンパイラとの連携がコーディング速度を左右する

Rustのコンパイラ(rustc)は所有権・借用・ライフタイムの厳密なチェックを行います。エラーメッセージは丁寧ですが、コードを書いてからビルドして確認する往復作業が多いと開発効率が落ちます。

rust-analyzerは、コードを保存する前の段階でリアルタイムにエラーや型推論結果を表示できるLanguage Serverです。rust-analyzerとの連携が充実したエディタを使えば、以下のような恩恵を受けられます。

  • インラインの型ヒント表示: 変数の型を明示しなくても、推論された型がコード上に表示される
  • 借用エラーの即時フィードバック: ビルド前にライフタイム関連のエラーを検出できる
  • コード補完の精度向上: トレイトの実装状況に応じた正確な候補が提示される
  • リファクタリング支援: 変数名の一括変更、関数の抽出、use文の自動整理

Cargoエコシステムとの統合度合いも確認すべきポイント

Rustのビルドシステム兼パッケージマネージャであるCargoは、プロジェクト管理の中核です。cargo buildcargo testcargo clippyなどのコマンドをエディタ内から直接実行できるかどうかで、ターミナルとの行き来が減り、集中力の維持につながります。

Rust対応エディタ/IDE 6選の機能比較

項目VS Code + rust-analyzerRustRoverZedNeovim + rustaceanvimHelixCLion + Rust Plugin
開発元Microsoft / Rust公式JetBrainsZed IndustriesコミュニティコミュニティJetBrains
価格無料非商用無料 / 個人9,660円/年 / 法人32,060円/年無料(OSS)無料(OSS)無料(OSS)有料(JetBrains Toolbox)
rust-analyzer連携拡張機能で統合独自実装(内蔵)ネイティブ対応rustaceanvim経由内蔵LSPクライアントプラグイン経由
デバッガCodeLLDB拡張内蔵GDB/LLDB未対応(外部連携)nvim-dap + codelldb未対応内蔵GDB/LLDB
Cargo統合タスク設定で対応ネイティブ統合ターミナル経由コマンド実行ターミナル経由ネイティブ統合
起動速度中程度やや遅い非常に速い非常に速い非常に速いやや遅い
メモリ使用量中〜大
AI補完GitHub Copilot等JetBrains AILLM統合ありCopilot対応限定的JetBrains AI
向いている用途汎用・初心者〜中級者業務開発・大規模PJ軽量・高速重視キーボード操作重視ミニマル志向C/C++併用PJ

各エディタ/IDEの特徴と導入方法

VS Code + rust-analyzer ― 最も普及している構成

VS Codeは、Rust開発で最も広く利用されているエディタです。JetBrainsの2021年調査ではRust開発者の約40%がVS Codeを使用しており、その後も高いシェアを維持しています(出典: JetBrains DevEcosystem 2021)。

主な強み:

  • rust-analyzer拡張により、型推論のインラインヒント・コード補完・定義ジャンプ・リファクタリングが利用可能
  • CodeLLDB拡張を追加すればブレークポイントを使ったデバッグも可能
  • GitHub Copilotなど複数のAI補完ツールとの組み合わせが柔軟
  • 拡張機能エコシステムが巨大で、Rust以外の言語を並行して扱うプロジェクトにも対応しやすい

導入手順:

# 1. Rustツールチェインのインストール
curl --proto '=https' --tlsv1.2 -sSf https://sh.rustup.rs | sh

# 2. rust-analyzerの確認(rustup経由で自動インストールされる)
rustup component add rust-analyzer

# 3. VS Codeの拡張機能インストール(コマンドラインから)
code --install-extension rust-lang.rust-analyzer
code --install-extension vadimcn.vscode-lldb

settings.jsonの推奨設定:

{
  "rust-analyzer.check.command": "clippy",
  "rust-analyzer.inlayHints.typeHints.enable": true,
  "rust-analyzer.inlayHints.parameterHints.enable": true,
  "editor.formatOnSave": true,
  "[rust]": {
    "editor.defaultFormatter": "rust-lang.rust-analyzer"
  }
}

check.commandclippyにすると、保存時にrustcだけでなくClippyの静的解析も同時に実行されるため、コード品質の向上につながります。

RustRover ― Rust専用に設計されたフル機能IDE

JetBrainsが2024年5月に正式リリースしたRust専用IDEです(出典: JetBrains RustRover Blog)。2025年には2025.1メジャーアップデートでAI Assistantの大幅強化が行われました。

主な強み:

  • rust-analyzerベースの独自実装により、大規模プロジェクトでも安定したコード解析を実現
  • GDB/LLDBデバッガが内蔵されており、追加設定なしでブレークポイントデバッグが可能
  • Cargo.tomlの補完・依存クレートのバージョン管理をGUI上で操作できる
  • プロファイラ連携やデータベースツールなど、IntelliJ系列の生産性機能がそのまま利用可能

料金体系:

プラン年額(税抜)備考
非商用(個人学習・OSS開発)無料個人の学習・OSS貢献に限定
個人商用9,660円2年目8,848円、3年目以降6,636円に割引
法人商用32,060円1ユーザーあたり

非商用ライセンスは個人の学習やOSSプロジェクトへの貢献に限定されています。業務で使用する場合は商用ライセンスが必要です。

導入手順:

# JetBrains Toolbox App経由でのインストールが推奨
# https://www.jetbrains.com/toolbox-app/ からToolboxをダウンロード

# Toolbox内でRustRoverを選択してインストール
# Rustツールチェインは初回起動時に自動検出される

Zed ― Rustで書かれた次世代エディタ

Zed自体がRustで開発されたエディタで、GPU描画によりVS Codeと比較して起動速度・操作レスポンスが大幅に速いのが特徴です。2025年10月にはWindows版も正式リリースされ、クロスプラットフォーム対応が実現しました(出典: Zed Blog)。

主な強み:

  • Rust製のためメモリ消費が少なく、1万行超のファイルでも遅延なく操作可能
  • Tree-sitterベースの構文解析とrust-analyzerのLSP連携を内蔵
  • リアルタイム共同編集機能があり、チームでのペアプログラミングに対応
  • LLM統合により、コード生成・変換・解析をエディタ内で完結できる

制約:

  • デバッガの内蔵サポートがないため、別途ターミナルでLLDBを使う必要がある
  • VS Codeほどの拡張機能エコシステムはまだ成長途中

導入手順(macOS):

# Homebrewでインストール
brew install --cask zed

# Linuxの場合
curl -fsSL https://zed.dev/install.sh | sh

Zed内の拡張機能パネルからRust言語サポートを有効化すると、rust-analyzerとの連携が自動的に設定されます。

Neovim + rustaceanvim ― キーボード操作を極めたい開発者向け

Neovimは0.5以降でLSPをネイティブサポートし、Rust開発でも本格的なIDE相当の機能を構築できます。2025年時点で推奨されるプラグイン構成はrustaceanvim(rust-tools.nvimの後継)です(出典: GitHub rustaceanvim)。

主な強み:

  • マウスなしで全操作が完結する高速なワークフロー
  • lazy.nvim等のプラグインマネージャにより、必要な機能だけを選択してインストールできる
  • nvim-dap + codelldbでデバッグ機能も実現可能
  • SSH接続先のリモートサーバー上でもローカルと同じ環境が使える

最小構成のプラグインリスト:

-- lazy.nvim での設定例
{
  'mrcjkb/rustaceanvim',
  version = '^5',
  lazy = false,
},
{
  'hrsh7th/nvim-cmp',           -- 補完エンジン
},
{
  'nvim-treesitter/nvim-treesitter', -- 構文ハイライト
},
{
  'mfussenegger/nvim-dap',      -- デバッグ
},

rustaceanvimはrust-analyzerの自動検出・設定を行うため、lspconfigでの二重設定を避ける必要があります。

Helix ― 設定不要で使えるモーダルエディタ

Helixは「ポストモダンなモーダルテキストエディタ」を標榜する、Rust製のターミナルエディタです。Kakoune風の「選択→操作」モデルを採用し、Neovimとは異なるキーバインド思想を持ちます。2025年7月の25.07リリースではファイルエクスプローラやコマンドのフラグ機能が追加されました(出典: Helix 25.07 Release)。

主な強み:

  • インストール直後からLSP・Tree-sitterが動作し、設定ファイルをほぼ書かずに使い始められる
  • rust-analyzerが検出されれば自動で接続し、補完・定義ジャンプ・リファクタリングが機能する
  • Neovimのような大量のプラグイン管理が不要

制約:

  • プラグインシステムが未実装(2026年2月時点)で、機能拡張の柔軟性はNeovimに劣る
  • デバッガ統合がないため、rust-lldbを別ターミナルで使う必要がある

導入手順:

# macOS
brew install helix

# Ubuntu/Debian
sudo add-apt-repository ppa:maveonair/helix-editor
sudo apt update && sudo apt install helix

# Arch Linux
pacman -S helix

CLion + Rust Plugin ― C/C++とRustを併用するプロジェクト向け

CLionはJetBrainsのC/C++向けIDEで、Rustプラグインを追加することでRust開発にも対応します。RustRoverの登場以降、新規のRust専用開発にはRustRoverが推奨されていますが、C/C++とRustが混在するプロジェクト(FFI連携やシステムプログラミング)ではCLionの方が適しています。

主な強み:

  • C/C++とRustのコードベースを同一IDE内で扱える
  • CMakeとCargoの両方のビルドシステムに対応
  • GDB/LLDBデバッガがC/C++・Rust双方で動作する

OS別のRust環境構築手順

Windows

Windowsでは、Rustのコンパイルに必要なリンカとしてMicrosoft C++ Build Toolsが必要です(出典: Microsoft Learn)。

# 1. Visual Studio Build Toolsのインストール
# https://visualstudio.microsoft.com/ja/visual-cpp-build-tools/ からダウンロード
# 「C++によるデスクトップ開発」ワークロードを選択

# 2. rustupのインストール
# https://rustup.rs/ からrustup-init.exeをダウンロードして実行

# 3. インストール確認
rustc --version
cargo --version

WSL2を使用する場合は、Linux側にRustをインストールし、VS CodeのRemote - WSL拡張経由で開発する方法も選択肢です。

macOS

# 1. Xcodeコマンドラインツール(リンカに必要)
xcode-select --install

# 2. rustupのインストール
curl --proto '=https' --tlsv1.2 -sSf https://sh.rustup.rs | sh

# 3. パスの反映
source "$HOME/.cargo/env"

# 4. 動作確認
rustc --version
cargo --version

Linux (Ubuntu/Debian)

# 1. ビルド必須パッケージ
sudo apt update
sudo apt install build-essential

# 2. rustupのインストール
curl --proto '=https' --tlsv1.2 -sSf https://sh.rustup.rs | sh

# 3. パスの反映
source "$HOME/.cargo/env"

# 4. 動作確認
rustc --version
cargo --version

開発効率を高めるツールチェインの活用法

Rustのツールチェインには、コード品質と開発速度を同時に向上させる仕組みが組み込まれています。エディタ/IDEの設定と合わせて活用すると効果的です。

rustfmt ― コードフォーマッタ

cargo fmtで統一的なコードスタイルを適用します。チーム開発ではrustfmt.tomlに設定を共有して、CIでフォーマットチェックを自動化するのが一般的です。

# rustfmt.toml の設定例
edition = "2021"
max_width = 100
tab_spaces = 4
use_field_init_shorthand = true

Clippy ― 静的解析リンタ

cargo clippyはRustのイディオムに沿ったコードを書くためのリンタです。rust-analyzerのcheck.commandclippyに設定すれば、エディタ上でリアルタイムに警告を確認できます。

# Clippyの実行
cargo clippy -- -W clippy::pedantic

# 自動修正の適用
cargo clippy --fix

cargo-watch ― ファイル変更の自動監視

ファイルを保存するたびに自動でビルドやテストを実行する仕組みです。

# インストール
cargo install cargo-watch

# 変更検知でチェック実行
cargo watch -x check

# 変更検知でテスト実行
cargo watch -x test

cargo-expand ― マクロの展開確認

Rustのマクロが実際にどのようなコードに展開されるかを確認できます。deriveマクロやプロシージャルマクロのデバッグに有用です。

cargo install cargo-expand
cargo expand  # lib.rs のマクロ展開を表示

用途別エディタ/IDEの選び方

Rustをこれから始める初学者

VS Code + rust-analyzerが最適です。情報量が多く、トラブル発生時にもWeb上の解決策が見つかりやすい環境です。GitHub Copilotを併用すれば、所有権エラーの修正提案も受けられます。

業務でRustを使うプロフェッショナル

RustRoverが適しています。デバッガ・プロファイラ・データベースツールが統合されており、大規模コードベースでの安定性も確認されています。JetBrains AIによるコード補完やリファクタリング支援も業務効率に寄与します。

起動速度・軽量さを最優先にしたい場合

Zedが有力です。Rust製でGPU描画を活用しているため、体感的な軽快さはVS Codeを大きく上回ります。デバッガが不要なWebバックエンドやCLIツール開発に向いています。

ターミナル中心で高速に作業したい上級者

Neovim + rustaceanvimまたはHelixを選択します。Neovimはプラグインによる自由度が高く、Helixは設定不要で即座に使い始められる点で差別化されています。

C/C++とRustの混在プロジェクト

CLion + Rust Pluginが唯一の選択肢です。FFIを多用するシステムプログラミングやOS開発で、両言語のデバッグを統一したい場合に適しています。

まとめ

Rustの開発環境選びで最も重視すべき基準は、rust-analyzerとの連携品質です。所有権・ライフタイムのエラーをリアルタイムに検出できるかどうかが、学習効率と開発速度の双方に影響します。

初学者はVS Code + rust-analyzerで始め、業務規模が拡大したらRustRoverへの移行を検討する流れが実用的です。軽量さを求めるならZed、ターミナル操作を極めたいならNeovimかHelixという選択肢もあります。

Rustツールチェイン(rustfmt・Clippy・cargo-watch)はどのエディタを選んでも活用できるため、エディタ選定後に併せて導入しておくと、日常のコーディング品質が向上します。