職場のPCに管理者権限がなく、ソフトウェアを自由にインストールできない。あるいは、USBメモリ1本でどのWindows端末でも同じGit環境を使いたい。こうした悩みを解消するのが PortableGit です。

PortableGitは、Git for Windowsが公式に配布しているポータブル版パッケージで、レジストリやシステム環境変数を一切変更せずにGitの全機能を利用できます。自己解凍形式のアーカイブを任意のフォルダに展開するだけで準備が完了し、通常のインストーラー版と同一のGitコマンドがすべて使えます。

PortableGitの基礎知識

PortableGit(正式名称: Git for Windows Portable、別名 “thumbdrive edition”)は、Git for Windowsプロジェクトが提供する配布形態の1つです。通常のインストーラー版(Git-x.xx.x-64-bit.exe)がWindowsのレジストリへの書き込みやシステムPATHの追加を行うのに対し、PortableGit(PortableGit-x.xx.x-64-bit.7z.exe)はファイルを展開するだけで動作します。

技術的には、どちらも同じGitバイナリ(git.exe)、Git Bash(MSYS2ベースのBashシェル)、Git GUIを含んでおり、機能面での差はありません。違いは「システムへの統合度」にあります。PortableGitは自身のフォルダ内で完結するため、展開先ごとコピーすれば別のPCでもそのまま動作します。

ライセンスは通常版と同じGPLv2で、商用利用にも制限はありません。

インストーラー版との機能比較

比較項目PortableGit(ポータブル版)Git for Windows(インストーラー版)
配布形式自己解凍アーカイブ(.7z.exe)インストーラー(.exe)
レジストリへの書き込みなしあり
システムPATHへの追加手動で設定が必要インストール時に選択可
管理者権限不要基本的に不要(オプションにより必要な場合あり)
アンインストールフォルダを削除するだけコントロールパネルから実行
USBメモリでの持ち運び可能不可
右クリックメニュー統合なし「Git Bash Here」等が追加される
自動アップデートなし(手動で差し替え)なし(手動で再インストール)
含まれるツールGit Bash / Git CMD / Git GUI同左
対応アーキテクチャ64bit / ARM6464bit / ARM64
展開後のサイズ目安約300〜400MB同程度

最大の差は「レジストリ・PATHを汚さない」点です。社内ポリシーでレジストリ変更が禁止されている環境や、共有PCで個人の設定を残したくない場合にPortableGitが適しています。

PortableGitが活躍する4つの場面

管理者権限のないPC

企業の支給PCでは、セキュリティポリシーによりソフトウェアの自由なインストールが制限されていることがあります。PortableGitはフォルダ展開のみで動作し、レジストリやProgram Filesへの書き込みが不要なため、一般ユーザー権限だけで利用を開始できます。

USBメモリでの持ち運び

PortableGitの展開先フォルダをUSBメモリ上に配置すると、差し込んだWindows端末でそのままGitコマンドを実行できます。出先のPCや客先端末など、事前にGitを準備できない状況で役立ちます。ただし、USBメモリの読み書き速度がHDDやSSDより遅いため、大規模リポジトリの操作には時間がかかる点は留意が必要です。

複数バージョンの共存

プロジェクトによってGitのバージョンを使い分けたい場合、PortableGitなら複数のバージョンを別フォルダに展開し、PATHの切り替えだけで済みます。インストーラー版では上書きインストールが前提のため、バージョンの共存が難しくなります。

オフライン環境での導入

インターネットに接続できない隔離ネットワーク内のPCでも、事前にダウンロードしたPortableGitのアーカイブをUSBメモリ経由で持ち込み、展開するだけでGitが使えます。ネットワーク接続を前提とするパッケージマネージャが使えない環境で有効な手段です。

ダウンロードからセットアップまでの手順

1. 公式サイトからダウンロード

Git for Windows公式サイト または git-scm.comのダウンロードページ にアクセスし、「64-bit Git for Windows Portable」のリンクをクリックします。2026年2月時点の最新版は v2.53.0 で、ファイル名は PortableGit-2.53.0-64-bit.7z.exe です。

ARM64搭載のWindows PCの場合は PortableGit-2.53.0-arm64.7z.exe を選択してください。

2. アーカイブの展開

ダウンロードした .7z.exe ファイルを実行すると、展開先フォルダの選択ダイアログが表示されます。任意の場所を指定して展開します。

: C:\tools\PortableGit

USBメモリに展開する場合は、USBドライブ直下またはサブフォルダを指定します。

例: E:\PortableGit

展開が完了すると、指定フォルダ内に bin/cmd/etc/usr/ などのディレクトリが作成されます。git-bash.exegit-cmd.exe がフォルダ直下に配置されていれば成功です。

3. PATHの設定

PortableGitはシステムのPATH環境変数を自動で書き換えません。コマンドプロンプトやPowerShellから git コマンドを直接使うには、PATHを手動で通す必要があります。

現在のセッションだけ有効にする場合(コマンドプロンプト):

set PATH=C:\tools\PortableGit\cmd;%PATH%

現在のセッションだけ有効にする場合(PowerShell):

$env:PATH = "C:\tools\PortableGit\cmd;" + $env:PATH

ユーザー環境変数に永続設定する場合:

Windowsの「設定」→「システム」→「バージョン情報」→「システムの詳細設定」→「環境変数」を開き、ユーザー環境変数の PathC:\tools\PortableGit\cmd を追加します。この操作に管理者権限は不要です。

設定後、新しいコマンドプロンプトを開いてバージョンを確認します。

git --version
git version 2.53.0.windows.1

4. 初期設定(.gitconfig)

Gitのユーザー名とメールアドレスを設定します。PortableGitでは、.gitconfig は展開先フォルダの etc/ 配下、またはWindowsのユーザープロファイル(%USERPROFILE%)に保存されます。

git config --global user.name "Your Name"
git config --global user.email "your.email@example.com"

改行コードの自動変換設定も行っておくと、Windows環境でのトラブルを防げます。

git config --global core.autocrlf true

VSCodeとの連携設定

Visual Studio CodeはGitを内蔵していないため、外部のGit実行ファイルのパスを指定する必要があります。PortableGitを使う場合、VSCodeの settings.json に以下を追記します。

git.pathの設定

VSCodeでCtrl+Shift+Pを押してコマンドパレットを開き、「Preferences: Open User Settings (JSON)」を選択します。以下の設定を追加してください。

{
  "git.path": "C:\\tools\\PortableGit\\cmd\\git.exe"
}

パス区切りは \\(バックスラッシュ2つ)で記述します。

Git Bashをターミナルとして使う

VSCodeの統合ターミナルでGit Bashを利用する場合は、settings.json にターミナルプロファイルを追加します。

{
  "terminal.integrated.profiles.windows": {
    "Git Bash (Portable)": {
      "path": "C:\\tools\\PortableGit\\bin\\bash.exe",
      "args": ["--login", "-i"],
      "icon": "terminal-bash"
    }
  },
  "terminal.integrated.defaultProfile.windows": "Git Bash (Portable)"
}

設定後、VSCode左下のソース管理パネルにGitのブランチ名が表示されれば、連携は正常に動作しています。

IntelliJ IDEAなど他のIDEでの設定

JetBrains製IDE(IntelliJ IDEA、PyCharm、WebStormなど)では、「Settings」→「Version Control」→「Git」の「Path to Git executable」に C:\tools\PortableGit\cmd\git.exe を指定します。「Test」ボタンでバージョンが表示されれば設定完了です。

よくあるトラブルと対処法

git コマンドが認識されない

PATHが正しく設定されていない場合に発生します。以下の順序で確認してください。

  1. where git(コマンドプロンプト)または Get-Command git(PowerShell)でgit.exeのパスが表示されるか確認
  2. 表示されない場合、PATHに PortableGitのパス\cmd が含まれているか確認
  3. 環境変数を変更した直後は、コマンドプロンプトを再起動する必要がある
where git
C:\tools\PortableGit\cmd\git.exe

日本語ファイル名が文字化けする

Gitはデフォルトで非ASCII文字のファイル名をエスケープ表示(\xxx 形式)します。日本語ファイル名をそのまま表示するには、以下の設定を行います。

git config --global core.quotepath false

Git Bashで日本語入力が正しく表示されない場合は、Git Bashのウィンドウタイトルバーを右クリック →「Options」→「Text」で「Locale」を ja_JP、「Character set」を UTF-8 に設定します。

SSL証明書エラーが発生する

社内プロキシ環境では、独自のCA証明書を使用しているためSSL検証エラーが出ることがあります。

fatal: unable to access 'https://...': SSL certificate problem: unable to get local issuer certificate

対処法1: 社内CA証明書を指定する(推奨)

git config --global http.sslCAInfo "C:/path/to/company-ca-bundle.crt"

対処法2: SSL検証を無効にする(セキュリティリスクあり、一時的な回避策)

git config --global http.sslVerify false

SSL検証の無効化は中間者攻撃のリスクがあるため、社内ネットワーク内の一時的な利用に限定し、CA証明書の取得を情報システム部門に依頼してください。

プロキシ環境で接続できない

社内プロキシ経由でGitHubなどの外部リポジトリにアクセスする場合は、プロキシ設定が必要です。

git config --global http.proxy http://proxy.example.com:8080
git config --global https.proxy http://proxy.example.com:8080

認証が必要なプロキシの場合は以下の形式で設定します。

git config --global http.proxy http://username:password@proxy.example.com:8080

PortableGitのアップデート方法

PortableGitには自動アップデート機能がありません。新しいバージョンがリリースされた際は、手動で更新する必要があります。

方法1: 新バージョンを上書き展開

  1. git-scm.comのダウンロードページ から最新版のPortableGitをダウンロード
  2. 既存の展開先フォルダに上書きで再展開

この方法では .gitconfig やSSH鍵などの個人設定ファイルは保持されます。ただし、etc/ 配下の設定ファイルをカスタマイズしている場合は事前にバックアップを取ってください。

方法2: 別フォルダに展開して切り替え

  1. 新バージョンを別のフォルダ(例: C:\tools\PortableGit-2.54.0)に展開
  2. PATHの参照先を新フォルダに変更
  3. 動作に問題がなければ旧フォルダを削除

この方法はロールバックが容易なため、安定性を重視する場合に適しています。

バージョン確認

現在使用中のGitバージョンは以下のコマンドで確認できます。

git --version

最新リリース情報は Git for WindowsのGitHubリリースページ で確認できます。

まとめ

PortableGitは、Git for Windowsが公式に提供するインストール不要のポータブル版Gitです。管理者権限が不要でレジストリを変更せず、フォルダ展開だけで全てのGitコマンドが使えます。

セットアップの要点を整理します。

  • ダウンロード: git-scm.com から PortableGit-x.xx.x-64-bit.7z.exe を取得
  • 展開: 任意のフォルダまたはUSBメモリに展開
  • PATH設定: 展開先\cmd をユーザー環境変数のPathに追加
  • VSCode連携: settings.jsongit.path展開先\cmd\git.exe を指定
  • アップデート: 新バージョンを手動でダウンロードし、上書き展開または別フォルダ展開で切り替え

管理者権限のない職場PC、USBメモリでの携帯、複数バージョンの併用、オフライン環境への導入など、通常のインストーラー版では対応しにくい場面でPortableGitは有力な選択肢となります。