GISの専門知識やAPIの技術的な理解がなくても、自然言語で不動産・地理空間データを取得できる時代が到来しました。国土交通省は2026年2月26日、「地理空間MCP Server - MLIT Geospatial MCP Server -(α版)」を新たに公開しました。既存の「国土交通データプラットフォーム MCPサーバー」と合わせると、国が2つのMCPサーバーを提供する形になります。
本記事では、それぞれの違いや対応データ、具体的なセットアップ方法、実務での活用シーンまで、公式資料をもとに整理しています。
MCPサーバーの基本的な仕組み
MCP(Model Context Protocol)は、Anthropic社が2024年に発表した、大規模言語モデル(LLM)と外部データソースを接続するためのオープンプロトコルです。従来、公開データを活用するにはAPI仕様書を読み、リクエストパラメータを組み立て、レスポンスを解析する一連の手順が必要でした。MCPサーバーを介することで、「東京都港区の地価公示データを教えて」のような自然言語の指示だけでデータ取得が完結します。
MCPの処理フローは次のとおりです。ユーザー側がAPIのエンドポイントやパラメータ仕様を意識する必要がない点がポイントです。

国土交通省が提供する2種類のMCPサーバー
国土交通省は現在、目的の異なる2つのMCPサーバーを公開しています。混同されやすいため、違いを整理します。
地理空間MCP Server(α版)— 2026年2月26日公開
不動産情報ライブラリAPIに特化したMCPサーバーです。不動産取引価格、地価公示、都市計画情報、防災情報など25種類のデータに自然言語でアクセスできます。
- 公式ページ: 地理空間MCP Server(α版)
- 報道発表: AIを活用した多様な地理空間情報の連携環境を試作・提供!
- GitHub: chirikuuka/mlit-geospatial-mcp
- 利用手順書(PDF): 利用手順書
- 背景: 「建築・都市のDX」「ジオAI(地理空間情報×AI)」推進の一環
- 操作デモ動画: 買いたい編、売りたい編
国土交通データプラットフォーム MCPサーバー — 2025年11月公開
国土交通データプラットフォーム(DPF)全体のデータにアクセスするMCPサーバーです。道路・河川・港湾・防災などインフラ分野のデータを横断検索でき、PLATEAUの3D都市モデルデータも含まれます。
- GitHub: MLIT-DATA-PLATFORM/mlit-dpf-mcp
- 対応データ: 国・自治体・民間の横断データ(道路、河川、ダム、水資源、交通、防災、港湾、3D都市モデル等)
- 18のツール: キーワード検索、矩形・円形地理検索、属性フィルタリング、一括取得、メッシュクエリ等
- APIバックエンド: GraphQL
2つのMCPサーバーの比較
| 項目 | 地理空間MCP Server(α版) | 国土交通DPF MCPサーバー |
|---|---|---|
| 公開時期 | 2026年2月 | 2025年11月 |
| 主な用途 | 不動産・地価・都市計画情報 | インフラ・交通・防災の横断データ |
| データソース | 不動産情報ライブラリAPI(25種類) | 国土交通データプラットフォームAPI |
| APIキー取得先 | 不動産情報ライブラリ | 国土交通データプラットフォーム |
| GitHub | chirikuuka/mlit-geospatial-mcp | MLIT-DATA-PLATFORM/mlit-dpf-mcp |
| 技術スタック | Python | Python |
| ライセンス | MIT | MIT |
| 3D都市モデル対応 | なし | あり(PLATEAU) |
| 不動産取引価格 | あり(詳細) | なし |
「不動産売買の価格相場を知りたい」「物件周辺の防災リスクや学校区を調べたい」といった用途なら地理空間MCP Serverが適しています。「道路やダムのインフラデータを横断的に調べたい」「PLATEAUの3D都市モデルを使いたい」場合はDPF MCPサーバーが向いています。

地理空間MCP Serverが対応する25種類のデータ
不動産情報ライブラリAPIが提供する35種類のデータのうち、地理空間MCP Server(α版)は25種類に対応しています。カテゴリ別に分類すると以下のとおりです。
不動産価格情報
| データ種別 | 内容 |
|---|---|
| 不動産取引価格・成約価格 | 実際の売買取引価格データ |
| 鑑定評価書情報 | 不動産鑑定士による評価データ |
| 地価公示・地価調査ポイント | 公示地価・基準地価の地点データ |
都市計画情報
| データ種別 | 内容 |
|---|---|
| 都市計画区域・区域区分 | 市街化区域・調整区域の区分データ |
| 用途地域 | 住居・商業・工業等の用途区分 |
| 防火・準防火地域 | 建築基準法上の防火規制区域 |
| 立地適正化計画 | 居住誘導区域・都市機能誘導区域 |
| 地区計画 | 地区単位の土地利用ルール |
| 高度利用地区 | 容積率の割増が認められる地区 |
周辺施設・教育情報
| データ種別 | 内容 |
|---|---|
| 小学校区 | 学区の境界データ |
| 中学校区 | 学区の境界データ |
| 学校 | 各種学校の位置データ |
| 保育園・幼稚園等 | 就学前施設の位置データ |
| 医療機関 | 病院・診療所の位置データ |
| 福祉施設 | 介護・福祉施設の位置データ |
| 図書館 | 公共図書館の位置データ |
| 市区町村役場及び集会施設等 | 公共施設の位置データ |
防災・地盤情報
| データ種別 | 内容 |
|---|---|
| 災害危険区域 | 法令で指定された災害リスク区域 |
| 大規模盛土造成地マップ | 宅地地盤の安全性情報 |
| 地すべり防止地区 | 地すべり対策法に基づく指定地区 |
| 急傾斜地崩壊危険区域 | がけ崩れリスクのある区域 |
| 液状化発生傾向図 | 地形区分に基づく液状化リスク |
その他
| データ種別 | 内容 |
|---|---|
| 将来推計人口(250mメッシュ) | エリア別の人口推移予測 |
| 駅別乗降客数 | 鉄道駅の利用者数データ |
| 自然公園地域 | 国立公園等の区域データ |
これらのデータを組み合わせることで、物件の価格査定に加えて、周辺環境・防災リスク・将来の人口動態まで一括で把握できます。
地理空間MCP Server(α版)のセットアップ手順
前提条件
| 項目 | 要件 |
|---|---|
| OS | Windows 10/11 または macOS 13以降 |
| Python | 3.10以上 |
| メモリ | 8GB以上推奨 |
| ストレージ | 1GB以上の空き容量 |
| MCPホスト | Claude Desktop |
Step 1: 不動産情報ライブラリのAPIキーを取得する
不動産情報ライブラリにアクセスし、API利用申請を行います。利用規約に同意すると、APIキーが発行されます。このキーをHTTPリクエストヘッダーの Ocp-Apim-Subscription-Key に設定して利用します。
Step 2: リポジトリをクローンする
git clone https://github.com/chirikuuka/mlit-geospatial-mcp.git
cd mlit-geospatial-mcp
Step 3: Python仮想環境を構築する
python -m venv .venv
# Windows
.venv\Scripts\activate
# macOS / Linux
source .venv/bin/activate
Step 4: 依存パッケージをインストールする
pip install -r requirements.txt
Step 5: Claude Desktopの設定ファイルを編集する
Claude Desktopの設定ファイル claude_desktop_config.json にMCPサーバーの接続情報を追加します。
Windowsの場合(%APPDATA%\Claude\claude_desktop_config.json):
{
"mcpServers": {
"mlit-geospatial-mcp": {
"command": "C:\\path\\to\\mlit-geospatial-mcp\\.venv\\Scripts\\python.exe",
"args": ["C:\\path\\to\\mlit-geospatial-mcp\\src\\server.py"],
"env": {
"LIBRARY_API_KEY": "取得したAPIキーを記入",
"PYTHONUNBUFFERED": "1",
"LOG_LEVEL": "WARNING"
}
}
}
}
macOSの場合(~/Library/Application Support/Claude/claude_desktop_config.json):
{
"mcpServers": {
"mlit-geospatial-mcp": {
"command": "/path/to/mlit-geospatial-mcp/.venv/bin/python",
"args": ["/path/to/mlit-geospatial-mcp/src/server.py"],
"env": {
"LIBRARY_API_KEY": "取得したAPIキーを記入",
"PYTHONUNBUFFERED": "1",
"LOG_LEVEL": "WARNING"
}
}
}
}
command と args のパスは実際のクローン先に合わせて書き換えてください。
Step 6: Claude Desktopを再起動する
設定を保存した後、Claude Desktopを再起動します。チャット画面のツール一覧に「mlit-geospatial-mcp」が表示されれば接続成功です。
国土交通DPF MCPサーバーのセットアップ手順
もう一方の国土交通データプラットフォーム MCPサーバーの導入手順も簡単に紹介します。
Step 1: APIキーを取得する
国土交通データプラットフォームでアカウント登録を行い、APIキーを発行します。
Step 2: リポジトリのクローンと環境構築
git clone https://github.com/MLIT-DATA-PLATFORM/mlit-dpf-mcp.git
cd mlit-dpf-mcp
python -m venv .venv
source .venv/bin/activate # macOS/Linux
pip install -e .
pip install aiohttp pydantic tenacity python-json-logger mcp python-dotenv
Step 3: 環境変数を設定する
プロジェクトルートに .env ファイルを作成します。
MLIT_API_KEY=取得したAPIキー
MLIT_BASE_URL=https://data-platform.mlit.go.jp/api/v1/
Step 4: Claude Desktop設定に追加する
{
"mcpServers": {
"mlit-dpf-mcp": {
"command": "/path/to/mlit-dpf-mcp/.venv/bin/python",
"args": ["-m", "src.server"],
"env": {
"MLIT_API_KEY": "取得したAPIキー",
"MLIT_BASE_URL": "https://data-platform.mlit.go.jp/api/v1/"
}
}
}
}
Claude Desktopを再起動すれば利用可能です。
実務での活用シーン
不動産売買の価格調査
「渋谷区の過去3年間の不動産取引価格を教えて」と質問するだけで、地理空間MCP Serverが不動産情報ライブラリAPIから取引データを自動取得します。宅建業者や個人が物件の相場感を把握する場面で、従来はWebサイトを何画面も操作してCSVをダウンロードしていた作業が自然言語で済むようになります。
物件周辺の安全性・生活利便性の一括確認
地理空間MCP Serverは防災情報と周辺施設情報を同時に扱えます。「横浜市中区の物件周辺で、液状化リスク・最寄りの小学校・医療機関の位置を教えて」のように複数の条件を一度の問いかけで処理できます。
インフラ系データの横断分析
DPF MCPサーバーを使えば、「札幌市中央区の3D都市モデルデータを取得して」といった問いかけでPLATEAUデータにアクセスできます。建設コンサルタントやデベロッパーが施工計画や都市開発の検討資料を作成する際に有用です。
海外事例: リモートMCPサーバーによるゼロ構築アクセス
海外では、ローカルに環境構築を行わずHTTP経由で接続する「リモートMCPサーバー」パターンが普及しつつあります。PLATEAUプロジェクトの英語ブログ(Re:Earth Engineering)によると、http://api.plateauview.mlit.go.jp/mcp のようなエンドポイントにHTTPで直接接続する方式が公開されており、認証不要で3D都市モデルのカタログ検索やCityGMLデータの取得が可能です。今後、国内のMCPサーバーでもリモート方式が採用されれば、環境構築の手間がさらに軽減される見込みです。
不動産情報ライブラリAPIの出力形式
地理空間MCP Serverの背後で動作する不動産情報ライブラリAPIは、用途に応じて2つの出力形式を選択できます。
| 形式 | 特徴 | 適した用途 |
|---|---|---|
| PBF(バイナリベクトルタイル) | データサイズが小さく高速転送が可能 | 地図タイルの描画、大量データの表示 |
| GeoJSON | JSON形式で読みやすくデータ加工が容易 | 分析・加工、他ツールとの連携 |
MCPサーバー経由で利用する場合、LLMが自動的に適切な形式でデータを取得・解釈するため、ユーザーが形式を意識する必要は基本的にありません。
利用時の注意点
α版としての制約
両MCPサーバーともα版(実験的なリリース)です。国土交通省の公式ページには以下の免責事項が明記されています。
- 動作保証なし: α版として提供されており、動作の完全性は保証されていません
- 予告なく変更・削除の可能性: 機能やAPIの仕様が変更される場合があります
- 損害に対する免責: 利用により生じた損失・障害について国土交通省は責任を負いません
- 技術サポートの範囲: Claude・GitHub・Pythonなどのツールに関する問い合わせには対応されません
APIキーの取り扱い
APIキーは設定ファイルに直接記載するため、GitHubへのコミットや共有フォルダへの配置には注意が必要です。.gitignore にClaude Desktopの設定ファイルや.envファイルを追加しておくことを推奨します。
リクエスト制限
不動産情報ライブラリAPIには同一APIキーに対するリクエスト数制限があります。短時間で大量のクエリを連続実行すると制限に達する可能性があるため、バッチ処理では適切な間隔を設けてください。
政府MCPサーバーの今後の展望
国土交通省が地理空間データと国土交通DPFの2系統でMCPサーバーを提供した意義は、行政が保有するオープンデータへのアクセス障壁を大幅に下げた点にあります。
デジタル庁のjGrants MCPサーバー(GitHub)など、他の省庁でもMCPサーバーの公開が始まっています。今後は省庁横断でのデータ連携や、現在のα版からの正式版リリース、リモートMCPサーバー方式への対応など、進展が見込まれます。
不動産情報ライブラリAPIの35種類中25種類が対応している状態から、残り10種類の追加対応もアップデートの候補です。国土交通省は意見投稿フォームを設けており(意見投稿フォーム)、機能要望を直接伝えることが可能です。
まとめ
国土交通省が提供するMCPサーバーは、地理空間MCP Server(α版) と 国土交通データプラットフォーム MCPサーバー の2種類があります。前者は不動産情報ライブラリAPIの25種類のデータに特化し、後者はインフラ・防災・3D都市モデルなど幅広いデータを横断検索できます。
いずれもPython環境とClaude Desktopがあれば無料で導入でき、APIの専門知識がなくても自然言語で公共データにアクセスできます。α版のため動作保証はありませんが、不動産査定・都市計画・防災評価といった実務で活用できるデータが揃っています。
関連リンク一覧
| リソース | URL |
|---|---|
| 地理空間MCP Server 公式ページ | 国土交通省 |
| 報道発表資料 | 国土交通省 |
| 地理空間MCP Server GitHub | chirikuuka/mlit-geospatial-mcp |
| 利用手順書(PDF) | 国土交通省 |
| DPF MCPサーバー GitHub | MLIT-DATA-PLATFORM/mlit-dpf-mcp |
| 不動産情報ライブラリ | reinfolib.mlit.go.jp |
| 不動産情報ライブラリ API説明書 | APIマニュアル |
| 国土交通データプラットフォーム | data-platform.mlit.go.jp |
| 建築・都市のDX | 国土交通省 |
| ジオAI(地理空間情報×AI) | 国土交通省 |
| 意見投稿フォーム | Microsoft Forms |
